ある日のこと

教室移動のため大翔のクラスを通り過ぎる時だった。

ドアのところに源喜の姿が見えた。

源喜とはなにかと大翔のことについてからかってくる厄介な人物。ほんとやめてほしい。

他人のふり他人のふり他人のふり……

「ねーねー大翔、鎌田のこと好きなんでしょ?」

……はい?

「好きなんでしょ?ねーって」

これ私に気づいてないパターンかな

「おーい聞いてる?大翔??」

さすがに大翔の顔を見るのは怖くてそのまま通り過ぎちゃったけど、ちょっと気になるな…

「ねーねーみっきー、昨日の宿題さぁ」
「ん?春花〜?なになに」
「あーあ、大翔も少人数同じクラスだったら良かったのになぁ」

英語と数学はAB合同で出席番号で分けられている。

「なに暖、キモいよ」
「いやいやいや俺じゃなくて」

ニヤニヤとしながら暖はこちらを見ていた。

「変な暖〜」

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それから大翔とのからかいは増え続ける一方であった。

「……おかしい」
「確かに変わったよね、からかい方」
「私何かした…?」

深絆はシュンと下を向いた。

「いや……」

恐らく変わったのは、大翔の気持ちだろう。

「あっみっきー!技術行こ!」

直咲は話を切り替えジャージを持って深絆のところへ向かった。

「うん」

まあもやもや考えても仕方ないし、これは2人の問題だから私が間に入ることもできないし。

2人が解決することなんだからね。

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技術室に向かう途中、偶然大翔に遭遇した。

ああまた避けられるんだろうな。

まあいいか、慣れてるし。

それよりも姿を観れたことに感謝しよう…

制服にジャージって割と好き…いや大翔ならなんでもカッコよく見える…

そんなことをぼーっと考えていたら大翔の友達の蒼月が深絆の隣に大翔をつれてきた。

え、何?どういうこと…?

だけど大翔はすごい勢いでその場を立ち去ろうとした。

大翔の背中に向かって蒼月は叫んだ。

「意気地無し!」
「…わかってる」

悲しそうな大翔の声がしたのは気のせいだったのか。

それとも……本当に何かをしたいのか。

『…わからない』

「何が」

瑠威が呆れた様子で聞き返す。

「どうせまた鎌田さんがどうとかでしょ」
「自分でどうしたらいいのか、よくわからない」
「まあ、俺は口出ししないけど」
「瑠威ってクールだよね」
「そう?」

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「朝練だるいよな」
「ほんとほんと」

合唱コンクールの練習が始まりました。

「ん、大翔」

龍輝が窓の下を指差す。

「鎌田さんじゃん!ほらほら!」
「ん?」

窓の外に目を向けると、深絆の姿があった。

……目は合わないよな…

ちくりと胸の奥が痛む気がした。

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…………っとにハッキリ聞こえてるんだよね!

ダンっと上履きを叩きつけるように床に落とす。

あのクラス委員の龍輝までもからかうなんてほんとどうかしてる。

教室の前に向かうと、まだ龍輝たちの姿はあった。

「あっ!来たよ」
「……わかってるって」

そんな話し声をよそに教室のドアを開ける。

「みっきーおはよ!」
「おはよう」

少し冷たくなった風がそっと深絆の背中を押した。

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