私の名前は鎌田深絆。

私には悩みがあります。

それは…………

「うん、もう聞き飽きた。」

つーんと直咲が突き放した。

「もう!いいじゃん聞いてくれたって!」
「だーって大翔大翔うるさいわ」
「…………好きなんだもん」
「わかってるけどさあ」

そう、私は乾大翔が大好きなのだ。

………振られても。

「しつこいのかなあ」

深絆は深くため息をついた。

「…違うと思うけど」

直咲は何かを言いたそうな顔をしたが
小さく笑みを作り、その言葉をのみこんだ。

これは…大翔が言わなきゃいけないもんね。

──────────────

「大翔さんよ、いいんですか?」
「…なにが」

ふてくされながら大翔はふくれっ面をする。

「深絆ちゃん、誰かに取られちゃうかもよ?」
「…………わかってるよ」
「それにー…もう直ぐ卒業なんだよ?」

悲しそうに暖が言う。

「そう…なんだけどさあ…………」

大翔は頭を抱え込んだ。

「誰にも取られたくねぇよ……」
「じゃあ言わないと」
「…………好きだって?」
「そうだよ」

聖輝も暖の意見に同意した。

「高校別れるかもしれないのにいいの?」
「……うん…でも」
「…鎌田さんが、勇優を好きじゃないか心配ってことだよな」

勇優とは深絆と仲が良い男子のことだ。お互いのことを「親友」と言っているが、本当はどう思ってるかわからない。

「…………俺さ」

一呼吸置いて、自分の中で変わり始めていた気持ちを声に出す。

「鎌田さんのこと好きなのかもしれない」

「え…………?なんっ…え!?」
「つ、ついに認めた!?」
「…………この前、帰りに2人きりになっちゃって…俺が走ったら鎌田さん、俺に気づいて逃げるように走って行っちゃってさ」
「…そうなんだ」
「それが…モヤモヤしてて…俺、ずっと鎌田さんをこんな気持ちにさせてたのかなって」
「おまえ、成長したな。」
「うん。それがわかればいいよ」
「かなあ…」

大翔は窓の外を見上げた。

雲ひとつない秋晴れが広がっている。

「…あとは、それを鎌田さんに伝えるだけだね」
「…でも鎌田さんの顔見ると…避けちゃうんだよ」
「それは大翔が頑張るしかない」

聖輝が大翔の肩をポン、と叩く。

「次はおまえが行動する番だ。」

──────────────

帰り道、いつもなら深絆は誰かと一緒に帰るのだが今日は珍しく1人で帰ることにした。

「あ…大翔」

なんでかな。

どんなに離れてても1番最初に見つけてしまう。

目も合わないのにね。

「ほーら!大翔行けよ!」
「早くしないと帰っちゃうぞ?」

誰が?

深絆は疑問に思い後ろを振り返った。

「ほら!こっち見てる!早く!」

え、これ私のこと?

「大翔行けよ!頑張れって」

なに?どーゆーこと?

深絆は少し歩く速度を上げた。

門を越えると、誰かの走ってくる足音が聞こえた。

「おお!?行け行け〜!!!」

少し振り向いて見るとそれは大翔だった。

大翔は、深絆が振り向いて目を合わせた瞬間に
その場にしゃがみ込んだ。

「やっぱ無理ぃ……」
「おーい!行っちゃうぞ」
「今日はもう無理だ」

ため息まじりに大翔が呟いた。

………なんだったんだろう。

それからしばらく、似たようなことが続いた。

深絆がいるところに何故か大翔を連れてくるのだ。

だけど、大翔はいつも逃げてしまった。

「……何がしたいの?」

「んー……何か言いたいんじゃない?」

直咲に話してみたところ、思い当たる節があったようだ。

「ていうかみっきー、鈍感すぎ」
「へ…?」
「今日、一緒に帰ろっか」

不思議なことに直咲がいると大翔たちは何も言ってこなかった。

「なんとなーくわかったよ何がしたいのか」
「え!?何!」
「みっきー、早く告白しなよ」
「は!?もうしたってば!」
「2回目のを」

ずっと、考えていた。

もう一度言葉を選びな直して
ちゃんと自分の意思で気持ちを伝えられたらなって。

だけど、怖かった。

嫌われるのが。避けられるのが。

大翔がどんどん遠い存在になっていってしまうのが。

「それができないなら……」

ゆっくりと深絆が顔を上げると
直咲はニコニコと微笑みながら言った。

「引いてみたら?」
「ひく……?」
「押してダメなら引いてみろってやつ」
「……あー……それが大翔に効くと思う?」
「効きそうだよ」

だって、みっきーに避けられるの、相当キツイみたいだもん。

「引く……ね」

そう呟いた深絆の足元に紅葉の葉が舞い降りてきた。

まるで何かを知らせるように。

卒業まであと少し。

「……後悔だけはしたくないな」

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