「あれ…?宏光(ヒロミツ)じゃん。何してんの?」


いや、こっちが聞いてんだよ。


悪びれた様子もなく、笑顔で聞き返す咲に文句を言うのは気が引けて、心の中で1人ツッコむ…。

塀に腰かけて俺を見下ろすコイツは、10年以上一緒にいるのに、よく分からないヤツだ。




「お前さぁ…風邪ひくよ? つーか、マジで何してたの?」


髪やコートの雪をはらってやりながら問いかける。

黒いコートも茶色い髪も、今は真っ白だった。


「鍵忘れちゃってさぁ…」

「…は?」


もう何を言われても驚かないと思っていたのに
つい間抜けな声をあげてしまった。


だって、

傘もないのに何時間雪の中にいたんだよ!?

って普通は思うハズ。


どっかで時間つぶせば良いじゃん。

コンビニも、喫茶店も近くにあるし、
友達ん家でもいい。

…つーか、たぶん俺ん家でも大丈夫だ。
母さんは咲のこと、娘だと思ってるから。
(うちは男兄弟だから、咲が可愛くて仕方ないんだろう。)