「で、あるからして——」

 もはやお決まりのフレーズ。
 長期休暇前やその後、記念の式、催しで位の高いものが部下や学生に語りかける際、必ずと言っていい頻度で耳にする繋げ方である。

 退屈ということはない。
 エマは真面目すぎるが故に悩んだり、考え込んだりすることが多い性質だ。
 人の一挙手一投足、全てそのまま捉えてしまう、少し困った性格でもあるのだが。
 ことこういった場においては、居眠りや無駄話で怒られるようなことはまずない。

「君たちがこれからこの学園で学び、育み、吸収していく数多のものを楽しみにしている。以上」

 括りの言葉は流石に響いたみたいで。
 頭を下げて壇上を後にする学園長に、惜しみない拍手が送られた。



 その後、何かと小さな話を終え。
 案内された学園の一画、エマがこれから通うホームルームにて。

「や。これからよろしくね。私はマイ。マイ・メラリア」

「ソフィア・カトレッタです。ソフィで構いません」

 肩程までの明るい茶色のセミロング髪の活発そうな女の子、対してサラサラ黒ロング髪の大人しそうな女の子二人が、見た目印象通りのテンションでそれぞれ自己を紹介する。
 倣って自身も名乗るエマ。
 出身、趣味なんかを簡単にするついで、この後に催される予定のパーティーについても触れた。

「おー、今年はエマなんだ! 凄いね!」

「うぅ…ドキドキなので、あまり注目はしてくださらない方がありがたく…」
 
 肩を落とすエマだったが、

「出来ません! ふふ」

 真面目そうに見えたソフィも、その実中身はマイと同じだった。
 するとふと、今までずっと居た筈のエマの肩でもぞりと動く影が一つあった。

「あ、そうでした。こちら、ライムさん。私の大切な家族です」

「ライム——って、精霊様…!? お、驚いた…エマ、実はめっちゃ凄い人だったり……?」

「え——っと。いえ、王家の方々のような特別ではなく。昔、色々あって助けたライムさんと、以降一緒にいるだけなので。ですから、使役者と精霊ではなく、私たちはあくまで家族なんですよ」

「へぇ…なんか、凄いね。あと、良いね、そういうの」

 えっへん。
 そんな声が聞こえてきそうに姿勢を正すのは、エマではなくライムだ。
 エマの苦笑しつつも温かい気持ちで以って伸ばされた指先に、ライムは頬擦りして良い心地。

 すると。
 しかし、とソフィアが置くのに、二人して視線を送って注目する。

「席が隣と後ろだからと声をかけだだけだったのですが、これはいいお友達が出来そうで安心です。見た目には全く思いませんが、その実怖い人だった、なんて笑えませんから」

「中身が怖い人が魔術を学ぶって——やだね、それ。うん、怖い怖い。エマが見た目通りに可愛らしい子で良かったよ」

「誉めても何も出ませんよ……と、私のことは置いておいてですよ。お二人は知り合ったばかり、という感じではありませんね」

「ええ。私たちは、ここの小学部からの付き合いですから。クラス替えでも離れ離れになったことがない、何とも不思議な腐れ縁なのですよ」

 それはまた凄い話だ。
 小、中、一般高等部、そして魔術科、更にはそれぞれ十以上のクラス分けが成されるこのマンモス校に於いてそれは、確率などという壁レベルの話ではない。
 ともすれば運命か、あまりに面倒で教員が手を抜いているか、どちらかだ。

 もっとも、”万事万民の平等”を掲げるここに限って言えば、後者はあまり考えられない線ではある。
 いずれにせよ、ソフィの言う何か不思議な縁があるのは確からしい、と思える。

「仲良し、良いですね」

「無茶はするし言う事聞かないし、手は焼かされてますけどね」

「あ、それソフィが言う…!? その度無茶して倒れてるのはどっちよー!」

「マイが無茶をしなければいいだけじゃない…!」

 至極真っ当な怒りであった。
 しかし、それを非としない辺りは、やはり別段それを忌み嫌っているというわけでは無さそうではある。



 そんなこんなと、新しくも温かい空気に包まれたままで迎えた、初日の放課後。
 少し、と言うには大層な会場に入っていた一行。

 自由参加と例年謳っているにも関わらず、今年も同じく殆どの学生が参加している様子。
 苦ではない喧噪であるだけに、益々緊張も高まってしまう。

「オーファンさんからのアドバイス、アドバイス——」

 ぶつぶつと独り言のように言って思い返すのは、昨日のオーファンとのやり取りだ。