「俺、待ってろって言ったよな?」

「あんなとこ…」


今にでも泣きそうな陽の声。

私は微かになる胸を、左手で押さえた。


「…べっ別に付き合ってんだから、いいじゃん…」

「よくねぇっよ…」


これ以上陽の顔が見れなくて、私は下を向いた。


「…よくねぇっよ…俺が好きなのは…」


一ドキンッ


さっきまで微かだった音は、いきなり激しく高鳴った。


声も…顔付きも…


全部知らない…。



違う人みたいだ。



これは本当に



一…陽なの?






「もういいっ!
私一人でヒロさんのとこに行く」

「あっおい、満月」


クルリ、と振り返り、広樹の店に向かおうとする。



「馬鹿っあぶねぇっよ」



陽の声が耳元で聞こえ、体は陽の腕に収まっている。


一ププッ一…


不意に遠くで聞こえる車の音。


いつまでもなりやまない心臓。


熱を帯びていく。



「…車ぐらい注意しろよな」


優しいいつもの陽の声。



だけど違う。



何かが違う。



陽は陽なのに、今日は違って見える。










この日からだ。



私が弟を…陽を男の子だっ、て自覚したのは一…。