風が騒いでいた。

ビル風も確かに強かったが、明らかにそれとは流れが違う風が強く渦を巻いて過ぎて行った。


計画都市に相応しく整然と並ぶ市街の商店街。客足を引こうと凝らされた外観は柔らかな曲線やデコパージュを施され、何処かチグハグながら調和したビルがせめぎ会う。
離れて眺めると、一枚の抽象画のようにも見えるだろう。
その中でも珍しいほど四角い旧式の外観をわざと着せた店舗スタイルのドラッグストアは賑わっている。
(因みにここで言うドラッグストアとは、コンピューターウィルスに利く薬も含むと言う意味で薬品のみと限定しないのだ)
華やかな喧騒から離れ出ようとドアを開けた途端に吹き付けた風に、体格の良いヴィックは躊躇した。
季節外れの風の強さに何故か、胸の内に黒いハッキリしない靄が涌き出すような不安を醸されたからだ。
街路樹の枝葉が立てた大仰なざわめきのせいだろうか。
しかしそれは瞬間を凍らせるに止まった。
ヴィックは整備の行き届いたアースカラーのモザイクをちりばめた歩道の隅の街路樹の土埃にちょっと視線を向けたが、すぐに用事を思い出して店内に引返したことからも分かるだろう。