次々と数を増してゆくモーター音が遠く谺し始める。
沢山の蜂の羽音のようだ。

リニアカー走路は上半分が透明だが、変光機能付き強化ガラス製だ。夜間のビルの窓の賑やかな色彩から運転主の意識を守るためにルクス(光度)がトーンダウンする工夫がなされている。
飛来物で破壊されないように計算され尽くした樹脂混入の処理もされ、ダイヤモンド以上の硬度も備えている。
実はフリットバイクの衝突事故は案外多い。光に惑わされ、闇に酔うように走路に向かうのだ。


遠くにパトロール・カーのサイレンやコールを聞きながら、静かに時を待っている。
決して新しくはない型のフリットバイクに一応の基準をクリアした程度のスーツに身を包んだ、2、1に分乗している少年達は、タンデムの前方の少年が低く

「行くぜ」

と言うのを合図に敏感に反応する。2台は滑らかに動き出し、路地から抜ける2、3m手前で出力をエアからジェットに切替え地平走行から飛翔に移る。
美しい放物線を描いて上昇する機体は、剥き出しの機体上部にシールドを展開し操縦士と同乗者を包み込む。
風を受けてはためいていた着衣が落ち着くと、少年達は惑いなく加速する。