ウィッシュ・サウ一(いち)の繁華街に並立するビル群はとっぷりと暮れた陽の余韻を忘れた頃。

低く響くモーター音が支配する。夜饗の如く徘徊するバイクの一団がコンクリートの陰の中から湧き出すように集まって来る。

誰かが率いる訳でも無く、無言の合意のもとスピードと興奮のもたらす享楽の空気感を味わい合う。
危険と引換えに永遠とも思える若さを楽しんでいるようでもあった。

最新の幾何学ホログラフパーツ素材や微発光ファイバーが織り込まれたライダースーツに身を包んだ彼等の操るバイクは、スクータータイプだが飛翔型だ。

D.R.C.の時刻を確かめるように見て、一人が起動をし始める。
辛うじて聞き取れる程度から重めに力んで
ヴ,ゥオン
と立ち上がる起動音。
それを合図にあちこちで唸りが響き出す。
トルクの音が重なって、宵に誘われ鳴き始める昆虫達の奏でのようだ。

街灯に車体のメタリックを反射させながら、操縦席を包むシールドが結ばれる翳を伴いながら一斉に飛び立つ影は摩天楼を滲ませる。

制令指定観光都市であるリグル星星都の宵の一つの現実。
未来に漠然と抱える不安が映る姿がそこに重なるのか。