「はい、おしまい。」

そう言ってルシウスが立ち上がりベッドから下りる。

「はあ…?
これがお渡り…。」

お渡りとはなかなかバイオレンスな事だったらしい。

これが何故一発逆転に繋がるのかはさっぱりだ。

「…なわけないでしょ。」

ルシウスがテーブルの上のグラスにワインを注ぎながら呆れた様に言ってくる。

「お子様なキャロルにはフリで充分だよ。
良かったねキャロル。
明日の朝にはアグネス嬢の派閥はお祭り騒ぎだと思うよ。」

子供扱いを馬車でした事をまだ引きずっているらしい。

中々女々しい奴だ。

「どうも…。」

手首の止血をしながらキャロルも一応お礼を言う。

シーツの血はどうしようか。

朝にシーツ交換に来るメイドさんもビックリするはずだ。

しかもルシウスのベッドだ。

キャロルが犯人にされてルシウスに怪我を負わせた等言われたらたまったものではない。

「…シーツはそのままで良いよ。
じゃなきゃ意味がないからね。」

「そうなんですか?
それはまた奇特な趣向ですね。」

シーツに着いた血痕をじっと見ているキャロルに気が付きルシウスがふっと微笑む。

「…参ったなあほんと。」

ローテーブルに肘を付き掌に顎を乗せたルシウスがキャロルをじっと見つめ柔らかく笑う。

「君本当に今までよく無事に生きてこられたよね?」

「もしかして私馬鹿にされてますか?」

「いや、してないよ。
新種の珍獣を発見して育ててる気分ではあるけどね。」

「…やっぱり馬鹿にしてません?」

キャロルが眉間に皺を寄せるとルシウスが首を横に振り優しく笑う。

「私って皆が言う通り珍獣を好む悪癖があるんだなって思っただけだよ。」

「はあ…?」

全く分かっていないキャロルの頭をぽんと1度叩きルシウスは書類を捲り始めた。

話は終わったと判断しキャロルも手首に包帯を巻き終え事務机に向かう。

夜の帳が下りた塔の一室をペンの音だけが静かに響く。

今日は暇だったはずなのに何故か振り返って見れば怒涛の1日であった。

キャロルは羊皮紙にペンを走らせながらもゆっくりと頭が落ちる。

眠りに落ちる瞬間、ルシウスの深い溜息が聞こえた様な気がした。