カランカランと階下から鐘の音が聞こえる。

2階で大鍋を掻き回していた女性は一瞬手を止め階下の音に耳を澄ます。

小さく男性の声が聞こえ女性はまた手を動かした。

階段を上がる足音が近付く。

「うわっ暑っ!!
灼熱じゃねえか!!!」

「来て早々騒がないで下さいレオン。」

「いやでも窓くらい開けろって!
死ぬぞキャロル!」

レオンがブツブツと喚きながら窓を開ける。





ーあの日から約10年。

その輪郭は鋭くなりタレ目がちで昔から甘い顔と言われていた顔は女性にモテそうな色気が滲んでいた。

背も伸び細いがしっかりと筋肉のついた均整の取れた体格に変わっている。

レオンは窓を開けるとキャロルの被っていたフードを取る。

「真夏にこんなん被るとか正気か?!」

「髪に匂いついたら取れないんですから仕方ないでしょう。」

フードから耳の下辺りで切りそろえられた黒髪が溢れる。

眉間に皺を寄せた鋭く睨む真っ黒な瞳。

抜けるかの様な真っ白な肌に細い首筋。

10年経過して尚発達しないままとなった肉体はキャロルのコンプレックスだ。

キャロルは手を伸ばしコンロの火を止める。

冷めるまで放置だ。

「そういやキャロルさ、森の魔女って呼ばれてるんだろ?
すげえよな、魔力なくなってもやっぱり魔女って呼ばれるなんて!」

「…褒めてます?
貶してます?」

「いやキャロルらしいじゃん。
魔導具作ろうが薬剤作ろうが魔女って呼ばれるとかさ。
あっこれ土産。
王都で最近流行ってる料理。
聖女が考案したんだぜ。」

「へえ、いただきましょうか。
お茶入れるんで座って下さい。」

「これツマミだし酒ねえの?」

「ありますけどまだ昼間ですよ。」

「今日俺は休暇なんですー。
いーじゃん飲もうぜ。」

「まっレオンが大丈夫なら構いませんけど。」

そう言って戸棚から麦酒を取り出しレオンに渡す。

レオンは瓶に口をつけぷはぁと息を吐いた。

キャロルもジョッキに継ぎツマミに手を伸ばす。

「へえ、なかなか美味いですね。」

「なんかショーユって奴を輸入して作ったブリ大根って名前らしい。」

「ショーユ…確か東の方の国で開発されてましたね。」

「キャロル知ってんだ?」

「昔『おコタ』って魔導具作った時に教えてくれた開発者の国なんで。」

「あっなるほどね。」