あの悪夢から半年。

キャロルは未だに悪夢の中にいた。

塔からぼんやりと窓の外をひたすら眺め麦酒を煽る。

葉巻の紫煙が部屋の景色をくすませる。

事務机の上には大量の羊皮紙。

1番上の羊皮紙には休職手続き受理の文字が踊っていた。

扉が音を立てる。

キャロルは扉に顔を向けようともしない。

もう来るのは1人しかいないからだ。

「…なあキャロル。」

毛玉を抱き抱えたレオンが悲痛な顔をしながらクッションに腰掛けた。

レオンの声にもキャロルの視線は動かない。

ただ延々と窓の外を眺めるだけだ。

「…半年後に協議が開かれる事になった。」

レオンが人形の様に動かないキャロルに向かってポツリと話かける。

「殿下の15歳の誕生日の前に第二王子を王太子にする為の協議なんだ。
…これが承認されればその後殿下が目覚めて魔力が例え戻っても王位継承権は2位になる。
これを引っくり返せる可能性は0に近いと思う。」

レオンがちらりと目をやるがキャロルは返事をしない。

レオンは小さく溜め息をついた。

「なあキャロル。
お前学園もずっと休んでるし開発部も休職したんだろ?
なあ何があった。
殿下が倒れた夜、キャロルは何か知ってるだろ?」

キャロルは答えずに麦酒を飲み干す。

半年ずっとこんな感じなのだ。

レオンは今日もダメかと肩を落としている。

レオンは毛玉をぎゅっと抱きしめた。

キャロルがこの状態になってから毛玉はレオンが預かり世話をしている。

おかしい事には気付いていたのに何も出来なかった自分が情けなくて堪らない。

大切な幼馴染と変わり者の友の両方が壊れてしまった。

レオンの頬を涙が伝う。

もうどうしたら良いのか分からないのだ。

「なあキャロル…。
答えてくれよ…。
俺どうしたら良いんだよ。
俺にはどうしたらお前達が助けられるか分かんないんだよ。」

塔にレオンの嗚咽が響く。

この半年でレオンが泣くのは初めてだった。

泣く暇さえなかったからかもしれない。

泣けば全て認める様で怖かったからかもしれない。

堪えていた物が決壊した様に流れ落ちる雫が止まらない。

「なあ…教えてくれよキャロル……!」

歯を食いしばりながら流す涙はあまりに苦しくてレオンの胸を軋ませた。