「…ル、…ロル、なあキャロル。」

突然目の前にレオンの顔が現れ思わず仰け反る。

「えっ?
なっなんですか?」

「お前なー、もう放課後だぞ?
ずっと呼んでんのに何で気が付かないんだよ。」

慌てて窓の外を見ると景色がもう橙色に染まっている。

授業もとっくに終わっているのか教室内には殆ど人影がない。

「殿下、殿下!
放課後ですよ殿下!」

「あっああリアム。
えっとなんだい?」

「だから放課後ですって。
皆さんとっくに帰られてますよ。」

前の席でも先程のレオンとキャロルの様なやり取りが交わされている。

デジャブだ。

「お前ら本当にどうしたんだよ?
最近おかしいとは思ってたけど昨日から悪化してるぞ。」

レオンが心配そうな顔をするがキャロルには何も答えられない。

「…うん、ごめんね。
話せる様になったら話すから今は待ってくれるかい?」

キャロルの代わりに答えたルシウスにレオンはため息ををつく。

「…無理にとは言わねえけどさあ。
本当に二人共酷いぞ。
何かあるなら言えよな?」

「…うん。
ありがとう。」







おかしくなった理由は自分でも分かっている。

一昨日の晩に届いた赤からの報告書だ。

塔に戻ったキャロルは引き出しの鍵を開け羊皮紙の束を捲る。

『マリアヌ国王妃に対し魔力劫掠術を使用。
死亡を確認。』

『キャロル・ワインストに対し魔力劫掠術を使用。
失敗との報告。
理由は魔力暴走との事。
詳細は不明。』

『異世界召喚術を使用。
成功及び教会にて保護との情報有。』


王妃の別荘の引き出しから見つかったという羊皮紙に書かれた伝言の様な報告書。

キャロルはぐしゃりと羊皮紙を握り潰す。

全てルシウスの予想通りであった。

これで王妃を追い詰められるはずだった。

けれどルシウスは項垂れて言ったのだ。

これでは足りない、と。

エバンネ王妃が指示した事を示す物が何も無い。

誰が禁術を使用したのかも分からない。

日付もない。

でっち上げだと言われたらそれまでだと。

キャロルは奥歯を噛み締めた。

ここまで来たのに。

キャロルは握った羊皮紙を1枚捲る。

最後の1枚に書かれた文に怒りが込み上げる。





『アイラ・ワインストに対し心身玩弄術を使用。
成功したが魔力暴走により死亡を確認。』