「聖女は代々王位継承権第1位の王太子と婚姻を結んできた。
…ただ今回は第2王子の弟と婚約している事からキャロルから魔力を奪えなかった事で、何とか継承権を得ようと異世界から聖女と偽って彼女を召喚したと考えると辻褄が合うよね。」

キャロルの脳に帰りたいと泣いていた彩花嬢の顔が浮かぶ。

悲痛な顔で帰り方を知らないかとキャロルにすがっていたあの表情を思い出してしまう。

キャロルの握り締めていた拳が震えた。

身勝手にも程がある。

何人もの人間を絶望させなければならないほど継承権とは拘らなくてはならない物なのか。

「…そして最後に気になっているのは私の母親の死だ。」

「殿下のお母様ですか?」

「ああ。
私の母上は産後の肥立ちが悪く亡くなったとか体が弱く出産に体が耐えられなかったと言われているが本当はそうじゃない。
私を産んだ翌日、亡くなっているのが見つかったんだよ。
出産によって心臓にある魔力の核が破裂したのが原因と言われている。」

「出産で核の破裂?
そんな事ってありえるんですか?」

キャロルはそんな事例を聞いた事がなく首を傾げる。

ルシウスはキャロルの瞳をじっと見つめた。

ルシウスの深海のような瞳に一瞬吸い込まれそうになる。

「…ありえるんじゃないかな?
ただ出産が原因ではなくキャロルと同じ禁術を使われたなら、だけど。」

キャロルはヒュッと息を吸い込む。

王妃様も同じ禁術で殺されたとしたなら一体誰がしたのだ。

まだハリー第2王子は生まれていないしキャロルの場合とは違う。

ルシウスが何冊かの本を手に取り机に並べる。

「召喚術、魔力劫掠術、魔力転移術。
この本の作者は全員現王妃の母国出身者だ。
偶然だと思うかい?
私は母上の死から聖女の出現まで繋がっていると思えてならないんだ。」

「…まさか全て王妃様が仕組んだと?」

ルシウスは少し悩んだがゆっくりと首を横に振る。

「…分からない。
何も決め手になる様な物はないからね。
ただキャロル。
私はキャロルが鍵なんじゃないかと思うんだ。」

「私が、ですか?」

「魔力劫掠術は魔力を奪われ眠る様に亡くなるだけで本人は痛みも苦しみも感じないとあるんだ。

…ねえキャロル。
君は何故魔力を暴走出来たんだい?」