「私が呪いを受けたのは3歳の時、魔力を暴走させた夜でした。
実母は魔力量を欲していたようで私の多量の魔力量に気が付き禁術を使ったんです。」

「禁術?」

「はい。
他人の魔力を奪う禁術です。」

ルシウスが黙ってキャロルを見つめる。

だがキャロルは気付かないフリをして夜空を見上げた。

「魔物の魔石が心臓付近にあるように、人間の魔力の発生源である核もまた心臓にあります。
それを奪うと言う事はつまり命を奪う事を意味しています。
私は生命の危機を感じ魔力を暴走させ禁術を振り払いました。
ただそれによって実母の命を奪ったのです。」

キャロルはそこで言葉を区切り目を閉じる。

劈く様な母親の悲鳴。

倒れた母親を抱えキャロルに怒号を浴びせる父親。

母親に泣きながら抱き着く長兄。

キャロルを落ち着かせようと抱き締める次兄の腕。

忘れたくても忘れられないあの光景。

「…その時は禁術を跳ね除けたと思っていましたが勘違いでして。
深く眠ると黒いモヤが毎晩少しずつ近付いてくるんです。
それが実母の残した呪いだと分かりましてね。」

「…だからベッドで寝ずにソファーで寝てるのかい?」

「そういう事です。
まあ悪あがきってやつですよ。
その黒いモヤがまあ実はもうかなり近付いて来てまして。
いつまで逃げられるか分からない状況なんですよね。
いつ死ぬか、死ななくてもいつ魔力がなくなるか分からない人間を筆頭魔術師には出来ないでしょう?
…だから私は絶対に筆頭魔術師にはなれないんですよ。」

キャロルの言葉にルシウスが眉間に皺を寄せている。

「…だから諦めてるのかい?
家族も魔術も何もかも。」

「諦めていたつもりはないんですがね。
…ただ正直聖龍ならなんとかしてくれるんじゃないかと甘い事を考えてました。
結果このザマですが。」

キャロルは自嘲気味に肩を竦める。

ルシウスは真っ直ぐにキャロルを見詰めた。

全てを見抜く様なその視線が何だか苦しい。