あと何人なんだ…


マリアヌ国第一王子ルシウスは13歳にしてその若さに似合わない絶望まじりの溜め息をついた。

白金色の絹のような髪、深海に差す日の様な藍色に虹彩混じりの瞳、出会った人は必ず天使か神の落し子かと感嘆の息を吐く美貌。

そして13歳ながら将来は賢王に必ずなると言わしめられる頭脳、年に一度の騎士総当たり戦で今年とうとう優勝者として君臨し名実ともに文武両道、眉目秀麗を手に入れた少年。


そんな彼は今見合いの真っ最中であった。

(もう無理だ…。
そろそろ表情筋が死ぬ…。)

7日前から始まった見合いの最終日。

現国王の名によって集められた国中の10歳から20歳までの貴族令嬢約300人。

1人に付き時間は15分だとしても毎日10時間、ノンストップで笑顔を振り撒いてきたルシウスは限界に近かった。

いや、最早限界突破していた。

何度聞いたか分からない詩の朗読、歌唱、ダンスの披露、はたまた経営手腕の実績や男受けするようにと計算され尽くした甘え方、風さえ吹けば脱げてしまいそうなドレスでの肉体自慢。

その全てを笑顔で賛辞を述べ続けた自分は偉いと思う。

もう誰を見てもカボチャにしか見えない。

側近であり友人とも言えるレオンに1人終わる度評価を求められるが全てバツである。

さすがに将来的に王妃となり妻となる女性がカボチャでは困る。

とりあえず野菜ではなく人間である事が最低条件だと主張しても誰も我儘だとは言わないだろう。

「殿下、気を確かに。
次が最後だ。」

レオンに肩に手を置かれルシウスは疲労を滲ませながらも笑顔を作り頷いた。

とりあえずこの場さえ切り抜ければ日常の執務に戻れるのだ。

最悪悪い噂のない令嬢を選別しあみだくじで決めてしまえばいい。

見合いをしたと言う事実さえあれば父親である国王も煩く言わないだろう。

最後の気力を奮い立たせレオンに視線をやり最後の1人である令嬢の釣り書を受け取った。

(…名前、年齢以外空白だと?)

ルシウスは首を傾げた。

大体釣り書には実績や特技はたまた親族の武勇伝に至るまで隅々まで自分のアピールポイントを書き連ね正しく相手を釣るための情報が書かれているはずなのだ。


ただ最後の1人であるキャロル・ワインストの釣り書には名前と今年13歳になるとしか書かれていなかったのである。