もう二度と菜月を傷つけたくない。もう遅いのかもしれないけど、まだ間に合うのなら……。
「わたし、わたしね……。本当は小説が大好きなの。特に恋愛もの。キュンキュンするような溺愛ものとか、幼なじみとか、学園の王子様系とか。バカだって笑うかもしれないけど、いつか本物の王子様が迎えに来てくれるって今でも信じてる。でも、そんなことみんなの前で言ったらバカにされるし、今まで誰にも言ったことない」
「え? え?」
突然なにを言い出すんだと混乱しているであろう菜月。わたしだって、自分がなにを言いたいのかわからない。だけどね。
「これから……これからじゃダメかな? 菜月の好きな小説のこととか、もちろんそれ以外のことでもなんでもいいから、もっともっと菜月のことが知りたい。教えてほしいの」
本当は入学した時から思ってた。菜月ともっと話したいって。
でも優里たちの目を気にして、思ってることが言えなくて、本音を隠して過ごしてきた。
そんなわたしに本当の友達なんかできるはずがなかったんだ。
「わたしたち、これから友達になれないかな……?」
なにを今さらって思われるかもしれない。
都合のいいこと言わないでって言われるかもしれない。
でも、それでもいい。
言わなきゃ伝わらないってわかったから。
菜月は唇を噛みしめながらうつむいた。細い身体が小さく震えている。
「ご、ごめんね……へんなこと言って。菜月はわたしなんかと友達になりたくないよね」
よく考えたらわかるはずなのに、またわたしは自分のことしか考えられなかった。
最低だ。泣かせてしまうほどに、菜月のことを傷つけてしまっている。
「いいよ……」
「え……?」
顔を上げた菜月の目は赤かった。
だけどわたしの思いとは裏腹に、満面の笑みを浮かべている。
「あたしも……琉羽と友達になりたい。もっと……琉羽のことも知りたいし、あたしのことも……知って、ほしい」
指で涙を拭いながら、たどたどしく想いを伝えてくれる。
「い、いの?」
だってわたしは菜月を傷つけたんだよ?
「もちろんだよ。あたしもね、琉羽とはもっと話してみたいって思ってたんだ」
「な、菜月……っ」
目頭が熱くなって視界が滲む。
「な、泣かないでよ琉羽ったら」
「な、泣いて、ないっ」
ズッと鼻をすすって、瞬きを繰り返す。
根性で涙を引っ込めると、菜月にクスクス笑われた。
かわいい笑顔は変わってなくて、わたしまでつられて笑ってしまう。
もしかするとわたしは、こんなふうに菜月と笑い合いたかったのかもしれない。
だって今、心がすごく弾んでるんだもん。



