何事もないフリを決めこんで、静かに自分の席に着いた。
前の席に座る菜月は存在感を消して小説を読んでいる。
まず最初にやるべきこと。わたしが一番にやらなきゃいけないことをやる。それだけだ。
立ち上がり、わたしは菜月の前に移動した。
わたしの気配に気づいた菜月が顔を上げて、訝しげな目で見てくる。
「菜月……今までごめんっ!」
身体をくの字に折り曲げて頭を下げる。
握りしめた拳が震えているような気がするけど、そんなのいまはどうだっていい。
許してもらえるなんて思ってない。
許してほしいなんて言わない。
わたしはただ、菜月に謝りたかった。
罪悪感を抱えて過ごすのは、もううんざりだ。
いい加減、解放されたい。
それにね……わたしは菜月にしたことを、ずっと心のどこかで後悔していた。
恐る恐る菜月の様子をうかがうと、菜月は目を見開きながら固まっていた。
輝きを失った菜月の瞳。
目が合うと戸惑うようにその瞳が揺れた。
きっと困らせてしまっている。
「わたし、自分のことしか考えてなかった。ほんとにごめんね……とりあえず謝りたくて。いきなり話しかけてごめん」
それだけ言って自分の席へと戻った。優里や周りの女子たちがヒソヒソ言っているけど気にしない。惑わされちゃダメ。いちいち傷ついちゃダメ。
これはわたしが出した答えであり、選んだ道なんだから。