「ゆ、優里のためなら……なんでもするよ」
「あはは、美鈴ってば頼もしーい! やっぱりあたしの友達は美鈴だけだよ」
優里がニヤリとほくそ笑む。
それを見た美鈴が覚悟を決めたように瓶を握り、わたしに向けた。
「や、やめて……っ」
「う、うるさい。これは……優里のためなの」
「な、なんで、こんなこと」
美鈴は震える手で、わたし目掛けて瓶を振りかざす。
ギュッと目を閉じて頭を抱えた。
今になってようやく菜月の気持ちがわかったよ。
こんなのって……あんまりだ。
「やめろっっっ!」
実験室内に響き渡る大きな怒声と一緒に、誰かが走って来た。
そしてわたしの身体に覆いかぶさるように前に立つと、その人はわたしの身体をキツく抱きしめる。
バシャッと水をかぶったような音が聞こえた。
耳元で「うっ」という小さなうめき声がして、全身がガタガタと震え出す。
ウソ、でしょ。まさか、なんで。
「い、いがわ、くん? なんで……っ」
優里のビックリしたような声が遠くで聞こえた。
「あ……あ……っ」
動揺しているらしい美鈴の声も聞こえる。
空の瓶が床に落ちる鈍い音が響いた。
「大丈夫か? 琉羽」
「な、んで……」
わたしをかばったりするの。
こんなに危険なマネをするの。
「わたしなんて、かばう必要ないのに……なんでっ」
「仕方ないだろ、身体が勝手に動いたんだから。俺は、おまえが無事ならそれでいい」
慎太郎は身体を離すと、わたしの目を見て優しく微笑む。
背中に硝酸を浴びたはずなのに何事もないようにケロッとしている。わたしは気が気じゃなくて、ただ青ざめることしかできない。
慎太郎は優里と美鈴に向き直った。
「あ、あたしは関係ないからね? っていうか、美鈴が勝手にやったことだし」
「え……ゆ、り? なに、言って……」
友達は利用するもの。
さっき優里はそう言っていた。
だから、美鈴は今利用されている。
過去にわたしがされたのと同じように。



