もしも明日があるのなら、君に好きだと伝えたかった。


「硝酸だよ」
「え? 硝酸?」

美鈴の表情がこわばった。

「こ、これ、どうすんの?」
「さぁ、どうしたい? 美鈴がしたいようにしていいよ」
「え……」
「美鈴なら、これであたしを楽しませてくれるよね?」
「あ……う、うん。もちろんだよっ」

そう言った美鈴の表情が曇っていく。

「じゃあ、はい」

美鈴は震える手で小瓶を受け取り、そして過去のわたしと同じように手の中のそれをゴクリと喉を鳴らしながらマジマジと見つめている。

今まで優里に合わせてきた美鈴も、さすがにこれにはビビッているようだ。

「こ、これ、かけたら皮膚が溶けるやつだよね?」

美鈴の頬がヒクヒクと引きつる。

目を見開いて瞬きひとつしない。

「んー、溶けるっていうか、火傷するみたいな? って、あはっ。美鈴、手が震えてんじゃん。ウケるー! もしかして、ビビッてんの?」

怯える美鈴を見て笑っている優里には、人としての感情がないのかもしれない。

「美鈴、あたしたち友達でしょ? やってくれるよね?」
「あ……うっ、えと」

パクパクと声にならない声を出す美鈴の顔には、おびただしい量の汗が浮かんでいる。

「さっき、そう言ったよね? 友達だもんね?」

優里は怖じ気づく美鈴をギロリと睨んだ。

美鈴はうつむいたまま、身体をこわばらせている。

今の美鈴は過去のわたしだ。

わたしもふたりの前でこんなふうに怯えていたのか。

今だからこそ、冷静に周りを見ることができる。

握り拳がワナワナと震えた。