ふたりが実験室に入ってきた。
「っていうか、誰もいないんだけど」
「ほんとだ、薄気味悪いね」
薄暗い中、キョロキョロするふたり。
わたしに気づくと、大きく目を見開いた。
「っていうか、人形がいるんですけど」
「ほんとだ」
「あんた、ちゃんと菜月を呼び出したんでしょうね?」
優里が近づいてきて鋭い目でわたしを睨んだ。
実験室の黒板の真ん前で身構えるわたし。
足がガクガクブルブル震えているけど、なんとか乗り切れますように。
祈るような気持ちで大きく息を吸い込む。
優里と美鈴は腕組みしながら仁王立ちになって、まるで敵でも見るかのような目つきでわたしを睨んでいる。
「菜月は来ないよ」
声が震えてしまった。喉がカラカラに渇いて、緊張がハンパない。
「はぁ? 来ないって、なに言ってんの? 意味わかんないんですけど。呼び出さなかったの?」
「ありえないんだけどっ!」
「今すぐ連れて来いよ」
「無理、だよ。わたし、そんなことしたくない」
ふたりの機嫌を損ねないように生きたいんじゃない。
わたしは……わたしは、人を傷つけるような……そんな自分に成り下がるのは嫌だって気づいたの。
ずっとモヤモヤしていた。
苦しかった。後悔していた。
それは全部、人を傷つけた自分自身のことを自分で認めたくなかったからだ。
わたしは慎太郎のように優しい人間になりたい。強くなりたい。
今してる行動が正しいかはわからないけど、まだ間に合うのなら過去とはちがう今にしてみせる。



