──ガラッ
分厚くて黒いカーテンが引かれている化学実験室内は、過去と同じように薄暗くて不気味な雰囲気が漂っていた。
目を凝らして人の気配を探るけど誰もいないようだ。
これからどうなるのかなっていう不安はもちろんある。
それに緊張だってしてる。
今まで流されながら生きてきたわたしが、大勝負に出ようとしてるんだもん。
「琉羽のやつ、教室にいなかったけどちゃんと菜月を呼び出したのかな? あたしが言った時、嫌そうな顔してたけど、人形はただ黙って言うこと聞いてりゃいいのにね」
廊下のほうから優里の声が聞こえた。
「ぷっ、あはは。人形って! ウケる! でも、その通りだよね。琉羽って、『うん』しか言わないもん。自分の意見がないっていうか、うちらに合わせて愛想笑い浮かべてるだけだし。つまんないよね」
「美鈴のそれ、言えてるー!」
廊下に響き渡る声に、背筋がピンと伸びる。
胸の奥にグサッとナイフが突き刺さったかのような感覚。
『人形』って、そんなふうに思われてたんだ?
でも、仕方ないじゃん。
そうすればうまくいくと思ったんだもん。
波風立てたくなかったんだもん。
平凡に過ごしたかったんだもん。
でも、それじゃダメだってわかった。



