「琉羽じゃん。どうしたの? いつもより早くない?」
教室に着くとすでに優里が来ていた。
優里は派手な見た目をしているけど、学校に来るのは意外と早い。
まだほとんどクラスメイトがいなくて、教室の中はシーンとしている。
「う、うん。今日は早くに家を出たから」
「ふーん。あ、それよりさぁ、今日の放課後空けといてね。最大のお楽しみイベントがあるから」
優里が弾むような声をあげる。
「え……?」
そう言われて背筋が凍った。
できればちがうと思いたいけれど、嫌な予感が拭えない。
「お、お楽しみイベントって……?」
「んふふー、まだ内緒。とにかく、絶対に空けといてよね。裏切ったら、許さないから」
これ以上聞くと優里の機嫌を損ねてしまうので、やめておこう。
だけどまちがいない。
優里のその怪しい含み笑いを見て確信した。
「あ、それと、今日の放課後菜月に化学実験室に来てって声かけてよね。あんた三日も学校休んでたんだから、そんぐらいはしてよね」
やっぱり、菜月のことだ……。
優里の言うことは絶対に断れない。
ここで逃げたら、どういうことになるかは十分承知だ。
ああ、また、胃がギリギリしてきた。
「引きずってでも連れて来てよね。わかった?」
「……う、ん」
わたしはまた同じ過ちを繰り返すの?
菜月にまた、あんな顔をさせるの?
慎太郎に軽蔑の眼差しで見られるの?
『なんかあったら言えよ』
そう言ってくれた慎太郎を裏切ることになるんだよ?
いつの間にか、拳をきつくギュッと握っていた。
そのあとすぐに美鈴もやってきて、早速優里ときゃあきゃあはしゃいでいる。
どうしよう、どうすればいいの。
授業そっちのけで考えを巡らせる。



