「はよ」
「あ、うん。お、おはよう」
もしかして、わたしを待ってた?
ダメだ、緊張して声が上ずる。
保健室で泣き顔を見られたことといい、ツブヤイターの書きこみといい、今日起こるはずの出来事といい、後ろめたいことが多すぎる。
「えーっと、あ、あの、その……」
慎太郎は後頭部を手で触りながら、なにかを言いたそうに言葉を考えている様子。
スポーツバックを斜め掛けにして、両手をポケットに入れた格好で立っている慎太郎は、視線をキョロキョロさせて困惑顔を浮かべている。
その姿がサマになっていてカッコいい。
「熱、大丈夫か?」
「う、うん」
「そっか、よかった」
心底ホッとしたように口元をゆるめる慎太郎。
「つーか、おまえさぁ、具合が悪い時はもっと早く言えよな。いきなり倒れるし、泣き出すし、ビビッたんだからな」
慎太郎はそう言いながら冗談っぽく笑って、わたしの頭に軽いチョップを落とした。
久しぶりに見るその笑顔にドキッとして、さらには慎太郎が触れた頭のてっぺんに全意識が集中する。
「迷惑かけて、ごめん……」
「ちがうだろ」
「え?」
「そういう時は、『ありがとう』だ」
「あ、ありが、とう」
「よっしゃ、そんでいい。俺、べつに迷惑だなんて思ってないから。それだけは勘違いすんなよ?」
どうして慎太郎はこんなわたしに優しくしてくれるんだろう。
そして、その慎太郎の気持ちを嬉しいと思っているわたしがいる。
「なんかあったら言えよ? じゃあな」
慎太郎は再び小さく笑うと、今度はわたしの頭を軽く撫でてこの場から走り去った。



