──コンコン

「琉羽、起きてるの? 熱は下がったんでしょ? 今日は学校に行きなさい。このままだと勉強に追いつけなくなるわよ」

朝、お母さんが部屋のドア越しに声をかけてきた。

今日は行かなきゃ。

重い身体を引きずってベッドから起き上がり、のそのそと部屋の中を歩く。

ゆっくり制服に着替えてから、ダイニングに下りた。

「時間がないわよ。早く食べちゃいなさい」
「はーい」

エプロン姿のお母さんがバタバタと忙しなくキッチンとダイニングを行き来している。

今日は珍しく、ダイニングの椅子にはお父さんとお兄ちゃんが座っていた。

いつもふたりはわたしよりも早くに家を出るのに、今日は遅いのかな。

「おはよう」
「おはよ、久しぶりだな」

卵焼きを食べながらお兄ちゃんが笑う。

「そうだね」

同じ家に住んでいるのに『久しぶり』っていうのはおかしいけど、こうして家族全員が揃うのはすごく珍しい。

お父さんは新聞から視線を一瞬だけわたしに移しただけで、言葉はなかった。

家族というものに無関心なんだと思う。

今まで家族で遊びに行った記憶もほとんどないし、威厳があって厳格なお父さんは昔から口数が少なく、ほとんど笑顔を見せない。

無表情のせいでどこか睨んでいるようにも見えるその表情。

四角いメガネの奥の瞳が厳しくわたしを捉えているような気がして、わたしはお父さんがものすごく苦手だ。

なにを考えているのかまったくわからないし、子どもの頃から怖いというイメージしかなかった。

「早く食べろよ、遅刻するぞ」
「わかってるよ、いただきます」

いちいち言われなくてもわかってる。

お兄ちゃんに言われると、なんとなくムッとするというか。気に入らない。