「なーんか、調子に乗ってない? 当てつけみたいに堂々としちゃってさ」
グロスで艶めく優里の唇が不機嫌そうに歪められた。
優里は机に頬杖をつきながら、後ろにいる菜月を鋭く睨んでいる。
わたしは自分の席に座って、優里と美鈴の会話に耳を傾ける。
「ほーんと、平然と本なんか読んだりしちゃってさ。あたしはなんとも思ってませーんってか」
「うっざ」
菜月の毅然とした態度が気に入らないようだった。
わたしはこうなることを知っていてなにもできずにいる弱い人間だ。
「ねぇ琉羽、あんたはどう思ってんの?」
「え……?」
「だーかーらー、あんたは近藤菜月のこと、どう思ってんの?」
教室中に響き渡るほどの大声に内心ヒヤリとした。静まり返った教室内。
チクチクと針で刺すような視線が、あちこちから向けられているのがわかる。
背中に冷や汗が伝う感覚がして、心臓の音がやけにうるさい。
「早く答えなって、どう思ってんのよ」
「そうだよ。琉羽って、なに考えてるか全然わかんないしさ。この際、はっきりさせようよ」
美鈴までもがこの状況を楽しんでいる。どうすればいいんだろう、どうすれば。
こんな時、慎太郎だったらどうする?
「わ、わたしは……」
わたしは……。
──ガタン
そう言いかけた時、菜月が急に立ち上がった。
あまりの勢いに、椅子の背もたれがわたしの机に当たる。
そして菜月はなにも言わずにわたしの横を通り過ぎ、教室をあとにした。