もしも明日があるのなら、君に好きだと伝えたかった。


ショックな出来事が起きたのは、中学二年生になって二ヶ月くらい経ってからのことだった。

二年生でもわたしたちは同じクラスではなく、今度は二組と三組という隣のクラスだった。

ある日の放課後、帰ろうとして隣のクラスの前を通った時──。

『井川ー、おまえ、二組の佐上と仲いいよな。付き合ってんの?』

そんな声が聞こえてきた。

不意に足が止まったのは、自分の名前と慎太郎の名前が出てきたから。

慎太郎がそこにいる。それだけで、どうしようもなくドキドキしてしまう。

『あ、それ、俺も気になってた! 佐上さんって、細くてかわいいよな』

心臓が激しく高鳴る。

慎太郎はなんて返事をするのかな。それだけが気になって、手に汗握る。

『ルウなんて恋愛対象になんねーよ。見た目だけに惑わされるなんて、バカじゃねーの。あいつ、中身は男みたいなんだぞ』

ズキンと胸が引き裂けそうな感覚。ドクドクと黒いものが身体中を巡る嫌な感じがした。

『男みたいって、マジかよ』
『見た目、めっちゃ女の子らしいのに』
『どこがだよー? ない、絶対に。それに俺、あいつと仲良くなんかないし』

ドクンと心臓が鳴った。聞き間違いだと思いたかった。だって、信じられないよ……。

『うっわ、そこまで言うか? でも、かわいいじゃんよー』
『いや、あいつだけは絶対にない。だから、おまえらも相手にすんなよな』

ガラガラと世界が崩れる音がやけにリアルに耳に響いた。

足元から崩れ落ちそうになり、必死に足を動かしてその場から走り去った。

その後のことは、正直あまり覚えていない。どうやって家に帰ったのか、どうやって過ごしたのか覚えていない。

慎太郎の口から出たとは思えないような言葉の数々が、ナイフのようにわたしの心に深い傷跡を残した。

知らなかった、そんなふうに思われていたなんて。

今まで慎太郎の口から誰かを否定する言葉なんて聞いたことがない。

それはわたしが小野田くんに嫌がらせをされていた時だってそうだ。

彼は小野田くんのことを悪いようには言わなかった。

だから戦ったあとには親友のように仲良くなっていたし、それは今も変わらない。

慎太郎があそこまで言うのはわたしの中ではよっぽどのことで、その対象がまさかわたしだなんて……ショックで目の前が真っ暗になった。

無邪気な笑顔の裏側でそんなことを思っていたなんて、信じられなくて苦しかった。

もしかしたら、あたしの存在は迷惑でしかなかったのかな。

嫌われていたのかもしれない。

クラクラとめまいがして、激しい動悸までしてくる。

慎太郎だけは、いつだってわたしの味方でいてくれる。

そんなふうに確信してた自分がバカみたい。

慎太郎の優しさに甘えて、助けを求めて、慎太郎はいつもそれに応えてくれた。

でもそれは見せかけだけで、本当は迷惑でしかなかったんだ。

まさか、嫌われていたなんて……。

じゃあわたしはいったい、慎太郎のなんだったの?

友達でもないなら、いったいなに?

揺るぎないものが壊れた瞬間、世界は色を失った。

これ以上慎太郎に迷惑をかけちゃダメだ。

嫌われたくない。

もう関わらないようにしよう。それがわたしの出した結論。