小学三年生の時、運動会でリレーの選手になったわたしはアンカーという大役を任された。
というよりも、ジャンケンで負けてしまったのだ。
慎太郎とはべつのクラスで、彼も同じくリレーのアンカーだった。
慎太郎の場合ジャンケンで負けたわけじゃなく、きっと立候補してアンカーになったんだろう。
足が速いのも知ってるし、他のクラスのアンカーも強者揃いで、正直勝てる気がまったくしない。
ううっ、嫌だよ、緊張する。
足がガクガクして、ちゃんと走れないかも。
転んだらどうしよう……。
不安と緊張でいっぱいいっぱいだったわたし。
相当切羽詰まっているように見えたのか、半泣きのわたしに慎太郎が優しく声をかけてくれた。
『大丈夫、ルウならできる』
『うー、ム、ムリだよぉ……』
そりゃ、慎太郎は足が速いから余裕たっぷりだろうけどさ。
『大丈夫だって』
慎太郎のその自信は、いったいどこからくるんだろう。
どうしてそんなふうに言い切れるの?
わたしは自分に自信なんてない。
慎太郎はいつも行動に迷いがなくて、自分が正しいと思ったことを堂々とやってのける。
そんな慎太郎がカッコよくて、まぶしくて、時々見ていられなくなるんだよ。
でも不思議だね。
慎太郎に大丈夫だって言われたら、そんな気がしてくるんだもん。
慎太郎の『大丈夫』は魔法の言葉みたいだよ。なんだかいけそうな気がしてきた。
『シンタロー、ありがとう』
よし、頑張ろう。
せめて最後まで全力で走り切る。大丈夫だって言ってくれた慎太郎のためにも。



