「俺が取る」

耳元で低い声が聞こえたかと思うと、腕をグイッと後ろへ引っ張られた。

台の上に乗せようとしていた足が床へと着地する。

「わぁ」

そして後ろへバランスを崩した。その瞬間背中がトンッと誰かに当たって、倒れなくてすんだ。

すぐ後ろに人の気配がして、思わず顔を見上げる。

「ウ、ウソ……」

なんで?

「どの本?」
「え? あ、右から二番目の……」
「これ?」
「うん……」

台を使うことも背伸びをすることもなく、その人はいとも簡単にわたしが取ろうとしていた本を引き抜いた。

「ちっ、なんだよ、残念」
「男が出てくるとか聞いてねーよ」
「あれって、バスケ部の井川じゃん」
「ヒーロー気取りかよ」

先輩たちが不満の声を上げる中、慎太郎は先輩たちを睨んだ。

「図書室で騒がれるのは迷惑なんで、やめてもらえます? じゃなきゃ、この前のこと先生に密告しますから。大事な受験に響かないよう、気をつけて下さいね」
「い、井川くーん、そりゃないよ。先輩に向かってさぁ」

争う気はないらしく、先輩は冗談っぽくヘラヘラ笑いながら返してくる。

「じゃあ、もう少し先輩らしい行いをして下さい。ほら、行くぞ」
「え? あ」

慎太郎に引っ張られるようにしてその場から離れる。困惑気味についてくわたし。

なんだか慎太郎の横顔は怒っているように見える。

図書室の窓から差し込む光に照らされて、慎太郎のブロンドの髪がキラキラ輝いていた。

それに、大きな手のひら。力強くて、しっかりしていて、なんだかとてもドキドキする。

身長だって、すごく伸びたもんね。

慎太郎は図書室の隅っこまで来ると手を離してくれた。

辺りに人はいなくて、わたしたちだけだ。