そういえば、前に菜月が『うちの学校の図書室はすごいよ! 今度一緒に行こうよ』って言ってたたような。
わたしはそれを聞き流していた。
ちゃんと聞こうとすら、していなかったんだ……。
なんでだろう、今になって罪悪感がこみ上げる。
「あ、これ! 面白いよね」
どんな本があるのか気になって図書室の中を練り歩いていると、どこかから声がした。
本棚のわずかな隙間から、向こう側の様子をうかがう。
そこは勉強できるスペースになっていて、大きなテーブルとパイプ椅子がいくつか置いてあった。
こっちに背を向けて座るその人には見覚えがある。
菜月だ……。
「この本、近藤も好きなんだ?」
「あ、うん。推理ものはあまり読まないんだけど、父に勧められて読んだら、なんだかハマッちゃって。っていうか、井川くんはミステリーばっかだね」
菜月の口から出た名前と、どこか聞き覚えのある低い声に固まる。
「俺はほら、どんでん返しが好きっつーか。おまえだったのかよ! ってなるあの感覚が好きでさ」
「あはは、井川くんらしいね」
「近藤は恋愛小説が好きそうには見えないけどな。文学書とか読んでそう。あとは参考書とか」
「井川くんの中のあたしって、ガリ勉そのものだね。そんなことないんだけどなぁ」
楽しそうなふたりの会話。
教室では大人しい菜月だけど、ここではまるで何事もなかったかのように笑っている。
そして、慎太郎も……。
知らなかった、ふたりが知り合いだったなんて。
こんなに仲がよかったなんて。
慎太郎が小説を読むだなんて。