「ねぇねぇ、前から思ってたんだけど、菜月と話しててもつまんなくない?」

トイレの前の鏡を見ながら、グロスを唇に塗りたくる優里。

わたしは隣で手を洗いながら、そんな優里の横顔を見つめる。小顔で、スタイル抜群。それに、優里はかわいい。でもそれは造られたかわいさというか、狙っているというか、自然体でかわいい菜月とはまたちがっている。

「本の話しかしないしさー。恋愛にも興味がなさげだし。正直、うちらとは合わないと思うんだよね」
「それ、あたしも前から思ってた! 誘っても一緒にトイレにも来ないし、教室でひとりで本読んでるんだもん。ぼっちでいるほうがいいんじゃない?」
「なーんか、ムカつくよね」

一時間目が終わったあとの休み時間、本の続きを読みたいからと言って、菜月だけがトイレに来ていない。

わたしはそれをなんとも思わなかったけど、二人はちがったようだ。協調性のない奴だなと、気にくわないのかもしれない。

この光景も以前に見たことがある。

そうか、始まりはここからだったのか。

そんなこと、すっかり忘れてたよ。

「琉羽はどう思う? 菜月のこと」
「え?」
「うちらとは合わないよね?」

グロスでテカテカになった優里の口元が悪意たっぷりに微笑む。目が笑ってなくて、心臓にヒヤリと冷たい空気が流れ込んだ。

これは、答えをまちがえるとダメなやつだ。

優里が目でそう訴えている。