「読んでみたら面白さがわかるのに」
なんて冗談っぽく返している。そこへもうひとり、松島 美鈴(まつしま みすず)がやってきた。
「おはよう」
みんながそれぞれ挨拶を返し、四人での会話が始まる。
「菜月ってば、本の中の男にキュンキュンしちゃってんの。ウケるよね」
「えー、あはは。なにそれ、ありえないんですけど」
美鈴までもが菜月を笑った。
菜月は相変わらず笑っている。
バカにされているのがわからないのかな。
だから嫌なんだよ、そんなふうに自分の好きなものを人に話すのは。否定されて笑われたら、わたしだったら傷つくもん。それなら言わないほうがいい。
自分の中にしまっておいて、誰にも知られないほうがいい。
そうすれば、傷つかなくて済むんだから。
「菜月はほーんと、美人なのにそういう乙女チックなところがイタイよねー! 今時いないって、そんな子」
「あはは、言えてるー! ダサいよねー!」
優里の言葉に同調しながら美鈴が笑う。菜月の笑顔が、一瞬こわばったような気がした。
優里の言うことは、絶対で大いなる威厳がある。優里が右だと言えば右だし、黒だと言えば黒なのだ。
たとえそれがまちがっていたとしても、有無を言わさない圧力を目で訴えかけてくるから、この中の誰も優里には逆らえない。
それは、クラスの女子全員がそう。
優里は読者モデルをやっているというだけでも目立っているのに、両親が世界的に有名なデザイナーで色んな国から一目置かれている存在。
そんな優里は、このクラスで特別扱いされるのも必然のことだった。