お父さんは大学病院で救命医の部長として働いている。
お母さんも今は専業主婦だけど、お父さんと結婚してお兄ちゃんを生むまでは、救命医として働いていたらしい。
そんな二人の元に生まれたわたしはお兄ちゃんとはちがって、なにをやっても中途半端で鈍くさい。
目立つことが嫌いで、流されて生きる方が楽だからそうしている。
クラスの中では、その他多勢の中のひとり。ひっそりとした空気のような存在。
反対にお兄ちゃんは昔から目立ちたがり屋だった。リーダーシップを発揮して、クラスを引っ張っていくタイプ。
なにをやっても要領がよくて、先生やクラスメイトからの信頼も厚かった。
おまけに中学の時は生徒会長をしていた。わたしたちの代でもお兄ちゃんは有名で、有名な国立の医大に受かったことはこの地域の人はみんな知っている。
中学生の時は常に学年トップの成績を収めていたし、テニス部でも大活躍して、全国大会に出場したことがあるほどの実力の持ち主。
近所の人や親戚からはよく褒め讃えられ、その度にお母さんは嬉しそうにニコニコ笑っていた。
『あら、妹さんはずいぶん大人しいのね。お兄ちゃんは明るくていつもハキハキしてて、よく挨拶もしてくれるし、本当にいい子だわぁ』
近所の人にまで比べられてきた。お兄ちゃんを知ってる人は、みんなお兄ちゃんのことをいい子だという。
わたしとは似ていないという。
そういうのが、正直めんどくさい。どうして他人にまで比べられなきゃいけないの。お兄ちゃんなんて、大嫌いだ。
お父さんは仕事にしか興味がなくて、家庭に関心がなさそう。
仕事も不規則だし、めったに家に帰って来ないから、今までまともに話したことがない。
自分の家だけど、窮屈で息が詰まるような空間。助けて……ここではないどこかへ、連れてって。
心がそう叫んでいた。