それは……菜月との関係や、親との和解、慎太郎が告白してくれた事実がすべて消えてなくなってしまうということを意味していた。

「それでも、いいっ。わたしは、慎太郎に生きていてほしいっ!」

『よかろう、では──』

目の前の景色が大きく歪んだ。肉体から魂が抜けていくような、不思議な感覚に見舞われる。

ふよふよと実体のないなにかに形を変えたわたしは、どこだかわからない場所をふらふらとさまよい続ける。

「あ、あの、あなたはいったい……どうしてわたしに、こんなによくしてくれるの?」

『わたしかい? なーに、昔おまえさんに助けてもらったことがあるからね。恩返しさ』

「恩返し……?」

まさか……。

そんな考えが頭をよぎるのと同時に、目の前が明るくパアッと開けた。

『わたしのことは、どうだっていい。もう会うことも、ないだろうからね』

やけに遠く小さくなっていく声。

意識が飛びそうになる中、最後の最後で、猫の鳴き声が聞こえたような気がした。