「お願いだから……っ目を、開けて……っ」

必死に願っても、どんなに言っても、慎太郎が目を開けることはなくて。

ただ無情にも時間だけが過ぎていく。

こんなの……嫌だよぉぉ。

誰か……助けて。

わたしを過去に戻した誰か!

聞こえてたら、返事をしてよっ!!

『それが、おまえさんの望んだ結果だろう?』

ふとどこからか、そんな声がした。

真横をなにかが通り抜けたような気がして、ふとそこに目をやる。

「ヴーニャア」

遠く離れた視線の先に、交差点で毛づくろいをしていた猫がいて、まん丸な目でこっちを見据えている。

『いいじゃないか、死にたくなかったんだろう? おまえさんの中から、ずっと見させてもらっていたよ。よかったじゃないか』

「ち、ちがう、こんなの、わたしが望んだ結果じゃないっ!」

『おかしいなぁ、おまえさんはたしかに死にたくないと』

「そうだよ、死にたくなかった……! でも、慎太郎を犠牲にしてまで生きていたくないっ! どうして慎太郎が死ななきゃならないのっ!」

こんなのって、あんまりだ。

「慎太郎のいない世界なんて、意味がないんだよ……っ! 他の誰かを犠牲にするくらいなら、わたしが死んだほうがマシなの……っ!」

『ワガママだな、おまえさんは』

猫は立ち止まったまま、じっとわたしを見てる。

声の主が誰なのかはわからないけれど──わたしもじっと目を見るのをやめなかった。

「ワガママでも、なんでもいいよっ。お願いだから、慎太郎を助けてっ……! わたしは、どうなってもいいから……」

ねぇ、お願い。心が枯れ果てそうなほど、必死にお願いする。

『この男がそんなに大事なのかい?』

「うん、とっても大事な人……彼のおかげで、わたしは変われたんだよ。慎太郎のいない世界で生きてても、意味がない……」

『人を大切に想う気持ち、か。わからないな、わたしは人ではないから。だけどおまえさんの必死さは伝わってくる。どうしても、その男を助けたいのか?』

「うん、どうしても慎太郎を助けたい……もう、守ってもらってばっかりは嫌なんだ」

『わたしも鬼じゃない。そんなに望むのなら、おまえさんを元の世界に戻してやろう』

「元の、世界……?」

『やり直す前の世界だ。おまえさんが事故に遭い、ここへくる前のな。そこへ戻れば、この世界で努力して変えてきたことがすべて水の泡になる。それでもいいのか?』

すべて、水の泡……。