「はぁはぁ……」

どうしてこんな大事なことを忘れてたんだろう。

お願いだから、間に合って。

歩道を走っていると、次の信号が見えてきた。

歩行者側の信号は赤。

そこで信号待ちをしているたくさんの人。その中に慎太郎の後ろ姿を見つけた。

あと、五百メートル。早く、早く追いついて。

動け、わたしの足。全力で、彼の元まで。あと三百メートル……。

「し、慎太郎……っ!」

声が震えた。しかし、慎太郎は振り返らない。

それどころかどこか一点を見つめていて、赤だというのにゆっくりと交差点の横断歩道に近づいていく。

「ダ、ダメ……ッ! 慎太郎!」

お願い、止まって!

もう、なにしてんのよ、わたしの足はっ!

どうしてもっと早く走れないのっ!

涙が横に流れて消えていく。

ゴシゴシと腕でそれを拭いて、さらに足に力を込めた。

慎太郎は交差点の中央目がけて駆け寄っていく。

「慎太郎っ!」