「はぁはぁ」
自分の息遣いの声だけが耳に届く。
必死に腕を振って、足を前へと押し出して、力の限り走った。
もどかしくて、やるせない。
お願いだから、間に合って。
「あ……っ」
足がもつれて、前にバランスを崩した。
アスファルトの上に派手に転び、その拍子にこめかみと膝を強打する。
「いったぁ……」
思わずこめかみを手でさすると、べったりとした血が手についた。
でも今は、そんなことに構っていられない。
立ち上がって、走り出す。
膝がジンジンして、おまけにこめかみから血が流れ落ちてきた。
わたしはセーターの袖口でそれを拭うと、痛みに耐えながら全速力で足を動かした。
周りの人は何事かとわたしに視線を送ってくる。
信号待ちで立ち止まる時間さえもがもったいなくて、青になるのをまだかまだかと待ちわびた。
その間に慎太郎の姿を目を凝らして探すけど、どこにも見当たらない。
「あの子、やばくない?」
「めっちゃ怪我してる」
歩行者側の信号が青に変わった瞬間、人混みをかき分けて進む。
わたしが事故に遭った交差点まで、あともう少し。きっとそこに、慎太郎はいるはずだ。
進んでいくたびに、過去の出来事が蘇ってくる。
嫌だ嫌だと、心が大きく叫んでいる。
次第に涙があふれてきた。



