「あ、あれ? なんで」

ペダルを漕いでも思うように前に進まない。

よく見ると後ろのタイヤがパンクしていた。

「もう、なんでこんな肝心な時に……!」

あれ……?

そういえば、過去でもわたしは自転車に乗ってなかった。

今思い出したけど、あの時もこんなふうにタイヤがパンクしていたからだ。

わたしはなにか大事なことを忘れているような気がする。

そう、とても大事なことを……。

「おい、佐上! おまえ、ちょっとこっち来ーい」

遠くから担任の先生に呼ばれた。

先生はハァハァと息を切らして、青いチェックのハンカチで汗を拭っている。

どうやら先生は美鈴を追いかけていたようで、取り逃がしたのか、わたしに詳しくいきさつを聞いてきた。

わたしの知っている限りのことを話したけど、先生はうーんと首を捻っている。

正直、早くこの場を離れたいんだけど。

慎太郎や浩介くんは、もう帰ったかな。

なんでだろう、さっきから身体の震えが止まらないのは。

どうしてかな、よくわからないけれど。とてつもなく嫌な予感がしてならない。

頭がズキンズキンと痛んで、息が苦しくてたまらない。

込み上げる焦燥感と、言いようのない不安感。