なんだったんだろう、さっきの美鈴は。
わたしのことをすごく恨んでいるようだった。
「っていうか、井川くんカッコよくなかった?」
「わかるー!」
「好きな人って、優里ちゃんのこと?」
「いや、ちがうでしょ。佐上さんのことじゃない?」
「えー、やだぁ」
次第にざわざわと始める。
みんなからの視線を感じて、顔を上げることができなくなった。
「大丈夫か?」
うつむいた視線の先に、慎太郎のスニーカーが目に入った。
「う、うん……」
「つーか、ビックリしたし」
「わ、わたしも、まさか美鈴が……あんなこと」
優里のローファーの件も、まさか美鈴がしたことだったなんて。
そんなに憎んでいたんだ。
「いや、それもだけど。琉羽がカッターナイフを持った相手の前に飛び出したことだよ」
「え?」
「無茶しすぎなんだよ。俺と浩介で押さえようとしてたっつーのに」
そうなの?
視線を巡らせると、こっちに向かってヒラヒラと手を振る浩介くんがいた。
さすがにこの状況ではヘラヘラしておらず、神妙な面持ちだ。
どうやらふたりで美鈴を取り押さえる算段をしていたらしい。
「気づいたら、身体が勝手に動いてたの」
だってこうなったのは、もしかするとわたしのせいなのかもしれない。
わたしが過去に戻って来なければ、きっとこんなことにはならなかった。
少なくとも元の世界で美鈴がこんな事件を起こしたことはなかったから。
わたしが色々行動を起こしたことで、大きく変わってしまったんだ。
もうこれ以上、むやみに動かないほうがいいのかもしれない。
もしかすると、慎太郎や浩介くんまでもを、危険にさらしていたかもしれないんだ。
最後の最後でなにかあったら……嫌だ。
これ以上動くと不吉なことが起こりそうな予感がする。
「ったく、心配させんなよな」
「ご、ごめん……」
「琉羽になんかあったら、後悔してもしきれねーだろ」
うっ、やめてよ、真顔でそんなこと言うの。
思わずドキドキしちゃう。
「あ、わたし、用事があったんだ!」
「は? なんだよ、いきなり」
「ごめん、帰るねっ!」
これ以上一緒にはいられない。
もう巻き込みたくないの。
全速力で校門を出て自転車に跨る。ペダルを漕ごうとしたわたしの足は、大きく震えていた。