誰もが固唾をのんで成り行きを見守っている。

「な、なにすんのよっ!」

捻り上げられた手が痛いのか、美鈴は顔をしかめて慎太郎を睨む。敵意たっぷりの眼差し。

それでも慎太郎は怯むことなく、毅然としている。

「それはこっちのセリフだ」
「なっ、井川くんには関係ないでしょっ!」
「目の前で好きな女が身体張ってたら、助けるのは当然だろ」

目の前の慎太郎は、恥ずかしがる素振りなんて一切見せず、たまらずにわたしはカーッと顔が熱くなるのを感じて、うつむいた。

「は、なんなのよ、それ。井川くんって、うっざ」
「俺のことはどう言ってくれてもいい。でも、こんな解決方法はまちがってる」
「じゃあどうしろっていうの? 人を支配することしか考えてない人に、なにを言ったって無駄なんだから」

優里は相変わらずガタガタと震えていて、聞こえていない様子。

優里はこれまで散々なにを言っても聞く耳を持たないどころか、わたしたちとは根本的に考えかたがちがうから、理解し合うことは難しい。

「それでも、諦めたら終わりなんじゃねーの? 少なくとも、こんなやり方はまちがってる」
「なんで……いつも邪魔するの!? ほっといてよ!」

ますます怒りをあらわにする美鈴は、慎太郎の腕を乱暴に振り払った。

思わず身構えたけど、それ以上優里になにかしようとするわけでもなく。

ただじっと突っ立って、優里とわたしの顔を交互に睨んだ。

「元はと言えば琉羽のせいで……こうなったのに……っ」
「え?」

わたしの、せい?

「あの日、あんたがきちんと菜月を呼び出してさえいたら……こんなことにはならなかったんだ」

あの日?

菜月を呼び出す……?

それって夏休み前の化学実験室のことを言ってるの…?

「あんたが……悪いんだ。全部、あんたが……」

うわごとのようにそう繰り返す美鈴の目は、なんだかとてもうつろで。まるで魂が抜けてしまったかのよう。

「こらっ、なにをしてるっ!」

そこへ血相を変えた先生たちが何事かと慌てた様子で走ってきた。

野次馬はさっきよりも多くなっていて、面白半分に動画撮影までしている人もいる。

美鈴は先生に気づくと、慌てて昇降口から走り去った。

それを先生が追いかけたけれど、美鈴の逃げ足は早く、あっという間に見えなくなる。