あっという間に放課後になった。

いよいよだと思うと、緊張する反面、諦めにも似た気持ちが込み上げてきて、意外にもどんと構えることができていた。

残る問題は慎太郎をどうするか……。

一目散に逃げ帰ることも考えてみたけど、それはあえなく却下された。

「なんで井川くんがうちの靴箱のそばにいるの?」
「誰かを待ってるとか?」
「きゃあ、誰だろう」

そんな声がして、靴箱のそばに向かうわたしの足が止まった。

慎太郎の姿はここからじゃ確認できないけど、すでに待っているらしい。

それにしても、はっきりと覚えていないけど……今日の何時頃に事故に遭うんだっけ。

あの日の記憶を呼び起こしてみるけど、モヤがかかったようにはっきりと思い出せない。

そもそもわたしは……どうして事故に遭ったんだっけ。

ダメだ、どうしても思い出せない。

なんで思い出せないんだろう。

「ねぇ、あれって……」
「ウソッ、きゃあ!」
「な、なにしてんのっ!?」
「ちょ、怖いんだけどっ」

急に辺りが騒がしくなった。

どよめきと、戸惑いの声が入り混じっている。

何事かと思って恐る恐る靴箱の影から声のするほうを覗いた。

「ひっ」

そこには、上下黒のジャージに身を包んだボサボサ頭の美鈴が立っていて。鋭い目つきで周囲を威嚇するように睨みをきかせている。

その手にはカッターナイフが握られていた。

「ね、ねぇ、誰あれ。ヤバくない?」
「どう見ても不審者だろ。誰か先生呼んで来いよ」
「ナイフ持ってんだけど」

夏休みに見かけた時よりも痩せていて、それが美鈴であることに周囲の人はわかっていないよう。

知らない人が学校に乗り込んできたと思っている。

「ねぇ、なんの騒ぎー?」

そこへ優里がやってきて、この光景を目の当たりにする。

「え? なんなの? つーか、誰? なにしてんの?」

目を見開き、さすがの優里もその顔を強張らせる。固まったまま、動くことができないようだった。

それまで周囲を威嚇していた美鈴は、優里を見てビクッと肩を震わせた。

そして、ボサボサの髪をかきあげる。