「なん、だよっ、それ。なんでそんな、まるで、いなくなるみたいな言いかた……」

慎太郎の顔が苦痛に歪んだ。

「ち、ちがうよ、ただ感謝を伝えたかったの。ありがとうって」
「意味、わかんねーから……なんだよ、いきなり」
「だよね、いきなりすぎたよね……うん、でも、いいじゃん」

慎太郎はそんなわたしをへんな目で見てくる。

不安げに揺れる瞳が心の中を見透かそうとして、居たたまれなくなった。

「なんかあるんだろ? 言えよ」
「な、なんかって? ないよ、なにも」
「ウソつけ、顔に書いてある」
「な、ないってば」

どうして見抜かれるんだろう。

それほど今のわたしは鬼気迫っているように見えるのかな。

「俺の目をごまかせるとでも思ってんのかよ? 何年一緒にいると思ってんだ?」

一歩、また一歩と、わたしの元へと歩いてくる慎太郎。

わたしはそんな慎太郎からジリジリと後ずさる。

その目を見られなくて、とっさにうつむいてしまった。

「ほ、ほんと、なにもないから」
「意地っ張りな奴だな」

慎太郎の手が伸びてきて、わたしの顎に当てられた。

無理やりクイッと上を向かされ、視線が重なる。

あまりの近さに思わず距離を取ろうとしたけれど、背中が壁にトンッと当たった。

ダ、ダメだ、もう逃げられない……。

「俺って、そんなに頼りない?」

フルフルと小さく首を横に振る。

そんなわけない。わたしだって、ほんとは言いたい。でも……ギュッと拳を握った。言えないよ……。

「おーい、おまえら! そこでなにしてる? とっくにチャイム鳴ったぞー!」

遠くから先生が叫ぶ声がした。

慎太郎はパッとわたしから離れて、素早く耳元に唇を寄せてきた。

「今日の放課後、部活休みだから。帰り、ここで待ってる」

「え……」

そう言い残して、先生の元へと駆けていく。

「ふたりとも、遅刻届け書きに職員室に来い!」

「先生、俺があの子引き止めちゃって! 彼女は関係ないんで、見逃してやって下さい」

「井川ー、おまえなぁ、もっと時間と場所を考えてイチャつけ」

「はは、先生彼女いないからってひがまないでよっ」

「なんだとー、この野郎!」

先生とやり取りしながらわたしに目配せしてくる慎太郎。

どうやら助けてくれようとしてくれているみたい。

そんなふたりの横を通りすぎて、足早に教室へと向かう。

ドキドキと心臓の音がうるさい。

こんな時なのに、ますます慎太郎のことを好きになってる……。