あれから三日、慎太郎が絡んでくることはなくなった。
クラスがちがうから学校で顔を合わせることもなければ、廊下ですれ違うことさえない。
無意識に姿を探すけど、見かけたことは一度もない。
わかってる、わたしが選んだ道はこういうことだ。
だから寂しいなんて思っちゃいけない。
迫りくる九月二十五日まで、あと三日。
この三ヶ月、少しずつなにかが変わった。それは些細なことがきっかけで、わたしが行動を起こしたから。
以前のわたしはもっと大それた行動を起こさなきゃ、変わることなんかできないと思っていたけど、実際そうなれば大したことなんてなかったんだと思い知った。
死にたくて逃げてばかりだったわたしが、ここまで変われたのはすごいことだと思う。
変わろうと思えば変われるんだ。
それを身を持って体験できた。
それだけで十分なんじゃないかな。
「ねぇ、聞いて聞いて! さっき、見ちゃったー!」
「なになに? なにを見たの?」
昼休みの教室で、クラスの女子が色めき立っている。
その表情がいつもよりもキラキラしてるのは、教室に優里という気を遣う存在が休みだからなのかもしれない。
「さっき、井川くんが二年の小園先輩に告白されてたの!」
「小園先輩って、バスケ部マネの?」
「そうそう! 美人で有名な小園先輩!」
「うちの高校のマドンナじゃん! さっすが、井川くん。先輩まで落としちゃうとは」
聞きたくないのに聞こえてくる会話。
そこだけやけに鮮明に聞こえるのは、バカみたいに慎太郎のことを意識しているからだ。
気になって仕方ないから、ひとことも聞きもらすまいと耳を澄ませる。
「で、なんて返事してたの?」
「そう、それがね! 『ごめんなさい、今はまだそんな気分になれないっす』って! なんだか意味深な返事だよね!」
「今はまだ……ってことは、時が経てばそんな気分になるかもってこと?」
「さぁ、それはよくわかんないけど。今まで井川くんに告白してきた女の子は『好きな子がいて、その子しか見えないからごめん』って断られてきたみたいだよ」
キリキリッと胃が痛んだ。
「えー、そうなんだ? 断りかたまでカッコいいなんて罪だな」
「断りかたを変えたってことは、井川くんが女の子に振られたってことなんじゃないかな? 失恋したから、今はそんな気分になれないって言ったんじゃない?」
「なるほど、そういうことか。じゃあ、頑張ればうちらにもチャンスはあるわけだ」
「ないない、あるわけない。井川くんが凡人のあたしらを相手にするわけないでしょ。小園先輩ならわかるけど」
「でも、井川くんを振る女の子がこの世にいるなんて信じられないよね。わたしなら、告白されたら即落ちちゃうよ」
「あはは、そんなの誰だってそうでしょ」
談笑する声に、キリキリを通り越して、ギリギリと胸が痛む。
これでよかったはずなのに……なんでこんなに苦しいの。
慎太郎に抱きしめられた時の感触が、今でもずっと忘れられない。
その腕が他の人のものになるなんて、考えただけでも嫌だよ。
わたしのこと……忘れてほしくない。
でもなにも言えない。
言えるわけがない。
慎太郎が前に進もうとしてるのなら、わたしはそれを応援しなくちゃ。



