お昼休み、先生に用事があって職員室へ寄ったあと、遠くからきゃあきゃあという黄色い歓声が聞こえた。
それはどうやら体育館の方角からで、ふと足が体育館に向く。
風を通すために開けられているサイドの扉からそっと中の様子をうかがうと、そこにはバスケをしている男子たちの姿と、コートを取り囲むようにして見学する女子たちの姿があった。
男子たちは本気でバスケをやっていて、一番に目に飛び込んできたのはドリブルしながらゴールへ向かう慎太郎。
その表情はとても真剣だ。
「きゃー、井川くーん!」
「カッコいいー!」
「ほんとヤバいよね!」
「あーもう、めちゃくちゃドキドキするぅ!」
近くにいた女子たちが興奮気味に声をあげる。
ドキンドキンと心臓が跳ねて、思わず見入ってしまった。
慎太郎はゴール近くまでくると、ディフェンスを交してシュートを放った。
それは見事にゴールに入って、さらに大きな歓声があがる。
慎太郎が白い歯をむき出しにして嬉しそうに笑うのを、ドキドキしながら見つめる。
カッコいい、カッコよすぎる。
これだけのギャラリーと、男友達もたくさん。
慎太郎はやっぱり人気者で、わたしとは住む世界がちがいすぎる。
これから先も、慎太郎にはこんなふうに笑っててほしい。
このまま本音を言わないほうが、きっと慎太郎のためになる。
一週間後に消えるわたしのことなんかよりも、今あるものを大事にして……。
慎太郎にはずっと笑っていてほしいから……そのためならわたしはなんだってする。
優しいきみを傷つけたくないんだ。
わたしを守ると誓ってくれた慎太郎。
でもね、わたしも慎太郎を守りたい。
たとえ苦しくても、わたしの苦しみは長くは続かない。
だから……ごめんね。覚悟を決めて踵を返す。
目の前が涙でボヤけていたけど、それを拭うことはしなかった。