「ねぇ、お父さん……さっきお母さん様子が変だったけど……なにかあるの? タクシーっていう言葉に動揺してたよね?」

「え、あ、ああ……実は、母さんはな」

それからお父さんはお母さんのことについて話してくれた。

うちには昔車があって、お父さんもお母さんも免許を持っていたこと。

お母さんと五歳のわたしが車に乗っていた時に事故に遭い、わたしは頭を強く打って意識を失った。

わたしが死んでしまうのではないかという不安と恐怖に駆られたお母さんは、それ以来車に乗るのがトラウマになり、タクシーはおろか、バスにも乗れなくなってしまったんだとか。

わたしは五日間病院に入院し、三日目に目を覚ました。

お母さんは毎日泣いて過ごしていたという。

目を覚ましたわたしは事故のことを一切覚えておらず、事故前後の二ヶ月ほどの記憶を失ってしまったことまでお父さんは話してくれた。

知らなかった、そんなことがあったなんて。

「琉羽はしばらく、入院中に出会った男の子の話をしていたよ」
「入院中に出会った男の子……?」
「ああ。泣いてたから、手を握って励ましてやったんだって、得意げにな。琉羽はその男の子のお父さんの処置をしていたのが、俺だということを知っていたんだ」

もしかして、慎太郎のことを言ってる……?

交通事故に遭った慎太郎のお父さんの処置をしたのが、うちのお父さん……?

なにそれ、すごい偶然。

「わたしのお父さんが絶対に助けてくれるから、大丈夫って言って励ましたって言ってたぞ」

その時のことを思い出しているのか、お父さんが口元をゆるめた。

「わたし、そんなこと言ったんだ……覚えてないや」

だけど、慎太郎が言ってたことは事実だったんだ。

「だから、母さんは琉羽がいなくなればいいなんて……思ってるはずがないんだ。もちろん俺だって、そんなことを思うはずがないだろ?」

「うん……そうだね。帰ったら、ちゃんと謝るから」

「ああ。それと、おまえはおまえで、好きなことをやればいい。誰にも遠慮なんかする必要はないんだ。母さんの期待が大きすぎたという点も否めないが、これまで諦めてきたのは、琉羽自身が出した答えだろう?」

「…………」

そうだ。