もしも明日があるのなら、君に好きだと伝えたかった。


お父さんは別室にわたしを連れてくると、ようやくそこで一息ついた。
「お手伝いしますよ、さすがの佐上先生もおひとりではどうにもならないでしょう」
「助かります」

そこに現れたのはさっきの師長さんだった。

わたしの右膝の傷を見た師長さんは、お父さんが指示するまでもなく、必要な物品を手際よく準備していく。

まさに阿吽の呼吸っていうのがピッタリなほど、ふたりの息は合っていて。

麻酔からものの数分で処置は終わった。

──ガラッ

「佐上先生、すみません! 灰田さんがVFで波形がかなり乱れてますっ! 当直の岸田先生は先ほど当到着した救急車の患者さんの蘇生処置で手が離せなくて……!」
「わかった、すぐに行く」
「た、助かりますっ!」

お父さんはバタバタとここを出て行った。

緊迫感が伝わってくる命の現場。

お父さんが行かなきゃ、患者さんの命が危ないということなんだろう。

初めて目の当たりにしたお父さんが働く現場。

人の命を預かるという仕事を決して甘く見ていたわけじゃない。

だけど重んじていたわけでもない。

大変だなと思うくらいだった。

「佐上先生、いや、あなたのお父さんはね、無口で無愛想でしょう? でも、人一倍患者さんのことを考えている立派な先生なんだよ」

師長さんに車椅子を押されながら、一番診察室を出る。

わたしの目に飛び込んできたのは、処置台の上で横たわる意識のない患者さん。

お父さんは必死になりながら、目の前の患者さんの命を救おうとしている。

「除細動行くぞ。全員離れてっ」

テレビで見たことがある光景にビクリと心臓が跳ねる。

ここはドラマでもなんでもない、本当の命の現場。

「戻ったか? ダメだ、もう一回。チャージしてっ」

「はいっ」

師長さんはゆっくり車椅子を押して、わたしをナースステーションへ連れて行く。

わたしはお父さんの姿をいつまでも目に焼きつけた。

「不器用な人だから勘違いされやすいかもしれないけどね、いい先生だ」

そう言った師長さんの言葉がいつまでも頭の中に残っていた。