もしも明日があるのなら、君に好きだと伝えたかった。


タクシーはものの十分ほどで病院に着いた。

お父さんの働く大学病院だ。

車椅子に乗せられたわたしは、夜間受付横の職員用の出入り口から中に入ると、待合室を通過することなく裏から診察室へ通された。

忙しそうにバタバタする看護師さんや当直医の先生。

救急外来は夜も遅いというのに、患者さんが途切れることはないらしい。

「佐上先生? どうされたんですか?」

お父さんよりも年上の年配の看護師さんらしき人が、お父さんに気づいて声をかけてきた。

「師長、悪い。家族の緊急事態なんだ。一番診察室を借りるよ」
「ええ、構いませんよ。まぁまぁ、お嬢さんですか?」
「えっ、佐上先生のお嬢さん?」
「うーわ、マジっすか?」

車椅子にちょこんと乗ったわたしに注がれるたくさんの視線。

救急外来にいるスタッフが、マジマジとわたしを見つめる。うう、恥ずかしい。

「きゃあ、かわいい! 美人な奥さん似ですね!」
「先生の奥さんって、たしか昔ここで救命医だったんっすよね?」
「そうそう、かなりの美人だった人だよ。佐上先生が惚れこんで、猛アタックして落としたっていうウワサの」
「すごい! ロマンチックですねっ!」

寡黙なお父さんに寄せられるたくさんの視線。

それはどれも好意的なもので、わたしはあっけに取られた。

それに話の内容も……。

「さぁさぁ、私語はそれくらいにして夜はこれからですよ。しっかり働いて下さいな」

師長さんの声かけに、それまで集まっていた人が蜘蛛の子を散らしたように去っていく。