お父さんが応急処置を施してくれている間に、タクシーが家に到着した。
うちには車がないから、緊急時はどうしてもタクシーや公共交通機関になる。
「母さんは家にいなさい。俺が琉羽を連れて行く」
「で、でも……」
「心配するな、大丈夫だ。俺がついてる」
「え、ええ……そうね。じゃあお願いします……」
「ああ」
わたしはお父さんとお兄ちゃんに支えられながら、なんとかタクシーに乗り込んだ。
「帝王付属大学病院まで」
お父さんが運転手さんに行き先を告げると、タクシーはゆっくり発車する。
心配そうな表情を浮かべたお母さんの顔が窓枠から消えた。
気づくとお父さんとふたりきり。
車内には会話はなく、タクシーの運転手さんが無線で会社に行き先を告げている。
わたしは窓の外に目を向けて、流れ行く景色をボーッと眺めていた。
「痛むか?」
「え、あ、少し……」
お父さんは前を向いたまま、視線だけをわたしに向ける。
威厳があるのは変わらないけど、その目からは心配してくれているであろうことが伝わってくる。
「大丈夫だ、十五分もあれば処置は終わる。痛いのは麻酔を打つ時ぐらいだ」
「ま、麻酔……それって、注射?」
「ああ、そうだ」
げげっ、やっぱり……。
「局所麻酔用の細い針だから、大丈夫だ」
そういう問題じゃない。
針で刺されることには変わりないんだから。
ううっ、怖いよ。
「父さんがついてるから、大丈夫だ」
わたしの気持ちを察したのか、お父さんがつぶやいた。
抑揚のない声で、感情は読み取れない。



