「……っ」
服が擦れるだけでも痛くて歯を食いしばる。
「ち、血まみれだわ」
黒のズボンだったからわからなかったけど、お母さんの手が真っ赤に染まった。
改めて見ると右足首にまで血が滴り落ちて、サンダルにもべっとりと血がついている。
どうやら、思っていたよりも重傷らしい。
「無理にめくらないほうがいい。とりあえず家に入るんだ」
職業病というのだろうか。医師の顔を覗かせるお父さん。
「そ、そうね、琉羽、立てる?」
お母さんもしっかりとした顔つきになって、さっきまでの弱々しい姿は跡形もなく消え去った。
小さく首を振ってSOSのサインを出すと、お父さんとお母さんがわたしの両脇から身体を支えてくれた。
玄関先で傷口を見たお父さんが眉を寄せた。
わたしは怖くて見ることができず、顔を背ける。
「パックリ割れてるな。十センチくらいか。縫合が必要だ。医療用ステープラーでいけるか微妙なところだな」
「ええ、そうね。傷が残らないようになるべくそれがいいわ。でも、意外と深いから、ステープラーじゃ厳しいかもしれないわ。そうなると縫わなきゃ……」
恐ろしい単語が飛び交う。
そこまで深い傷っていうことなんだろう。
「いずれにせよ麻酔が必要だから、病院に行く必要があるわね」
「そうだな。タクシーを呼ぼう。皇電話してくれ」
「了解っと。スマホスマホ」
お兄ちゃんがポケットからスマホを出して電話をかける。
「タ、タクシー……ええ、そう、ね……琉羽の、ためだもの」
さっきまでお父さんと対等に話していたお母さんは、タクシーという単語にひどく動揺し始めた。
いったい、どうしたというんだろう……。
だけど今は痛みでそれどころじゃない。



