「……っ」
思わずその場にしゃがみこんで痛みに耐える。
「おい、大丈夫か?」
「う……ううっ……」
痛い。ヒリヒリ、ズキズキする。
必死に唇を噛みしめて、痛みをこらえた。
「大丈夫じゃ、ねーな。よし、乗っかれ」
「ええっ、な、なに言ってんの……」
お兄ちゃんは広い背中をわたしに差し出す。そしておんぶの格好をして、後ろに手を伸ばした。
「む、無理……大丈夫、歩けるからっ……っいたっ」
立ち上がるとさっきよりも強烈な痛みが走った。これは本格的にやばいかもしれない。
「痛いくせに無理するんじゃねーよ。素直じゃねーな」
「あ、ちょ、ちょっと……」
なかば強引にお兄ちゃんはわたしの腕を引いて背中に乗せると、軽々と立ち上がる。
「わっ、危ないって」
「だーいじょうぶだって。しっかし、おまえ細すぎだろ。ちゃんと食ってんのかよ?」
歩き出したお兄ちゃんの背中に、わたしは渋々全体重を預けた。
そして両手でギュッとお兄ちゃんの肩を掴む。なんだかすごく恥ずかしくて、背中におでこをくっつけて固く目を閉じた。
なんだろう、安心する。
大嫌いだったはずなのに、どうして……。
「く、食ってるよ……」
「はは、そうかよ」
蚊が鳴くような小さな声にも、お兄ちゃんは反応してくれた。
なんでかわからないけど、キューッと胸の奥が締めつけられて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「お兄ちゃん……」
「ん?」
「ごめん……なさいっ……」
「なんだよ、やけに素直じゃん」
クスクス笑っているのが気配でわかった。
「悪いと思ったら謝る……これ、わたしのポリシー」
「ぷっ、なんだそれ」
「わ、笑わないでよ……っ」
「ああ、ごめんごめん」
「思ってないくせにっ」
「あはは」
大人の余裕っていうやつなんだろうか。
お兄ちゃんはいつまでも笑うのをやめない。今までで一番、お兄ちゃんと本音で話せているような気がする。



