「俺はなぁ、努力してる姿とか、頑張ってる姿を人に見せるのは嫌なんだよ。だって、カッコ悪いだろ? こんなに頑張ったんだから、一位を取れて当たり前みたいに他人に言われるのも嫌だし、自分でこれだけ頑張ってるって自惚れるのも嫌だし。そんなふうにしてたら、周りからはいつの間にかできて当然っていう目で見られるようになって、失敗は許されなくなった」

いつになく真剣な表情のお兄ちゃんのこんな顔は初めてだ。

「親や親戚、友達やクラスメイト、それに先生。さらには近所中までもが、俺をそんな目で見てやがる。気の抜ける時なんてなくて、いつも周りの目を気にしなきゃいけない。琉羽には理解できないかもしんないけど、俺だって苦しかったんだよ」

「…………」

「だからなんだっていう話じゃないけど、俺はそこまでそつなくこなせる人間じゃない。だから、そこだけは誤解すんなよな」

知らな、かった。

お兄ちゃんが陰で努力してて、ものすごいプレッシャーに耐えていたなんて。

微塵もそんな姿を見せることなく、幸せそうに笑ってたから。

でも、それは上辺だけだったんだ……。

「でも、今日はおまえの本音が聞けてよかったよ」
「な、よかったって……」

なに、言ってんの。

「だっておまえ、いっつも不貞腐れたような顔して、絶対になんかあるんだろうなって思っても、なんも言わねーんだもん。最初から全部諦めたような顔して、言いたいことを我慢してるんだって思ってた」
「……っ」
「ま、俺を恨んでたことも知ってたけどな」
「そ、それは……っ」
「いいんだよ、琉羽の気持ちもわかるって言ったろ?」

お兄ちゃんはわたしよりもはるか大人で、あれだけひどいことを言ったわたしに優しく諭すような口調で話す。

「俺はそんな琉羽のことが心配だったんだ。でも今日、言いたいこと言ってるおまえ見て安心した。少々、内容に問題はあったけど、母さんにあそこまで言わなきゃ伝わらないのも事実だし」
「…………」

どれだけ子どもだったんだろう。

わたしはいつだって、自分のことばかり……。

お兄ちゃんが置かれている状況なんて考えたこともなかった。

いや、知ろうとしていなかったんだ。

わたしばっかりがツラいと思っていたから。

自分ばっかりが、悲劇のヒロインだと思ってた。バカだ……わたしは。

優等生でい続けるために、お兄ちゃんはどんなに努力したんだろう。

どんなに苦しかったんだろう。

プレッシャーに押しつぶされはしないかと、眠れない夜もあったのかもしれない。

緊張でご飯が喉を通らなかったり、勉強で一夜を明かしたこともあるのかもしれない。

わたしは嘆くばっかりで、お兄ちゃんのような努力はしていない。

むしろ、これだけ頑張ってるんだから、少しくらい報われてもいいはずだなんてたかをくくってた。

そんな自分が情けなくて、恥ずかしくて……ああ、ここから消えてしまいたい。

引きずっている右足の膝がズキッと痛んだ。